子どもが傷つくかもしれない場面で、そっと見守ることを選んだ。
息子なら大丈夫。
そう思いながらも、胸の中はざわざわしていた。
あの日、息子は自分で決めた。
嫌な気持ちの中で、自分の足で歩き出した息子の背中に、私はこれまでの時間が積み重なっているのを感じた。
仲良しだったあの頃と、変わっていった関係
「あっ!」
と嬉しそうに駆け出す子ども達。
その視線の先を見て、私の顔からさっと笑顔が消える。
そこにはYちゃんの姿があった。
Yちゃんと息子はつい先日卒園式を終えたばかり。
息子とYちゃんは入園前から仲良しだった。
その関係に変化が現れたのは年中の後半。
気づけば、暗い表情でYちゃんの話をすることが増えていた。
私は、息子が嫌な思いをするたびに、気持ちと向き合う時間を作ってきた。
見守ることしかできない、あの時間
(大丈夫かな……)
私の不安な気持ちをよそに、楽しそうに遊ぶ子ども達。
その時、私に向かって会釈をする人物が目に入った。
(あ、おばあちゃんと、お友達も来てるのね)
私の身体から、一気に緊張が溶けていくのがわかる。
おばあちゃんと少し雑談をし、離れた私。
遠巻きに子ども達が遊ぶ様子を眺めていた。
たくさんの笑い声が聞こえてくる。
少しして、おばあちゃんが忘れ物をしたと言って離れていった。
私がその姿を見送っていた時、それは起きた。
Yちゃんが大きな声で息子を呼んでいる。
息子はその声を背に、1人ぽつんと座っている。
何が起きたのかわからなかった。
私は、息子を少し離れたところから見守り続けた。
固く握った手のひらを見ると、赤く爪の痕が残っていた。
(爪を切らなきゃ)
気がつけばそんなことを考えていた。
突然、ぐっと膝に力を入れて立ち上がる息子。
滑り台へ行き、1人で何度も滑る。
滑りながら、ちらちらと周りを気にしている。
その表情はどことなく寂しそうで、見ているだけで苦しい。
私には分からなかった。
親としてどうすることが正解なのか。
息子を呼ぶYちゃんの声を聞きながら、私はただただ、見守り続けた。
移動しよう!
滑り台のてっぺんで、じっと皆の様子を見ている息子。
私はさっと近づき、滑り台の下からそっと声をかける。
「息子」
息子は私の顔を見ることなく、「うん」と言って滑り台を滑る。
そのままうんていに向かって走っていく。
私は静かについて行った。
うんていをまっすぐ見つめたままの息子に
「嫌な思いしてない?」と聞く。
「転んだだけだから大丈夫」
そう答える息子。
私は、息子の大好きな虫取りをしようと声をかけた。
虫取りをしていると、Yちゃんがやってきた。
楽しそうにしていた息子の表情が曇る。
(だめか)
そう思った時、息子は私の目をまっすぐに見て言った。
「移動しよう!」
すぐに移動の準備をする。
息子は大きな声で娘を呼んだ。
「ねぇね!移動するよ!!」
先頭を歩く息子。
その背中はしゃんとしていた。
「別のところに行くね!ばいばい!」
Yちゃんに、明るく手を振っている。
さっきまでの息子とは雰囲気が違う。
歩きながら、
「移動するって決めたんだね。頑張ったね。すごいよ。」
と伝えると、息子は私を見上げてニカッと笑った。

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