ルールって、なんのためにあるんだろう。
守らせるため?
トラブルを防ぐため?
それとも、誰かを守るため?
子どもと過ごす毎日の中で、
思いがけずそんなことを考えさせられた出来事がありました。
あの日の「忘れ物」をきっかけに、
私はルールの見え方が少し変わったのです。
忘れ物ひとつで、心がざわついた日
「あー!!箸セットがない!!」
帰宅した娘が大きな声を出しました。
「よりによって、今日は納豆の日!絶対に虫がくる!!」
大騒ぎする娘をよそに、私は
「大丈夫だよー。明日持って帰ってきたら洗ってあげるから」
と、面倒くさいという気持ちを悟られないよう、あっさりと応えました。
それでも取りに行きたいという娘。
何を言っても譲らない娘の相手をするのに疲れた私は、
「幼稚園のお迎えの後ならいいよ」
と、取りに戻ることを了承しました。
息子を迎えに行き、再び娘に学校へ行くか確認します。
「明日でも大丈夫だよ」と伝えますが、気持ちの変わらない娘に負け、家の前を通り過ぎました。
事務室に着き、忘れ物の件を伝えると、
事務員さんの表情がさっと曇りました。
「すみません。忘れ物は取りに戻らない決まりになっていて。」
はっとする私。
「しまった!!」と心の中で叫びました。
すぐに、
「すみません。ルールがあるのを知らずに来てしまいました。」
と伝えます。
事務員さんは、
「どうしよう。ダメなんですよね、決まりで。担任も今日は出張に行ってしまっていて……どうしよう……。」
私は焦りました。
(知らないとか、つい言ってしまったけど、絶対にお便りのどこかに書いてあったよね。事務員さんを困らせてしまった……。)
「大丈夫です!ルールに従いますので、明日持って帰ってこさせます!本当にすみません。」
なんとも言えない微妙な空気が流れる中、
「どうしました?」と明るい声が聞こえてきました。
振り返ると、そこには先生が立っています。
「忘れ物なんですけど……」と事務員さんが言うと、
「じゃあ、僕が特別に!行ってきますよ!」とニコッと笑ってくれました。
私はさらに焦りました。
(ぎゃー!こんなに先生方に迷惑をかけてしまった!忙しいだろうに!)
「大丈夫ですよ!明日で!!」
それでも先生は、
「大丈夫ですよ。僕に任せてください!」
「さあ、行こうか!」
と娘に声をかけてくれました。
ほっとした表情をしている娘を見て、感謝の気持ちでいっぱいになります。
無事に箸セットを手にし、楽しそうにおしゃべりをしながら戻ってきた娘。
「ありがとうございます!!」と頭を下げる私に、
「大丈夫ですよ。それじゃ、さようなら。」と、優しい笑顔を残し、さっと去っていきました。
ルールは、自分を守るためのもの?
帰りの車内。
私は、良かったと安堵する一方で、(やってしまった……)と恥ずかしく思っていました。
そんな時に聞こえた、小さな娘の声。
「なんで忘れ物を取りに行ったらいけないんだろう。」
「うーん。そうだね。なんでだろう。」
私は少し考えてから答えました。
「もしさ、たまたま忘れ物を取りに戻ったタイミングと、誰かの物がなくなったタイミングが重なったらどうなるかな。一度帰ったはずなのに教室に人がいたら、その人が疑われちゃうかもしれないよね?」
「確かに、それはあり得るかもしれない。」
「このルールは、きっと自分を守るためのものなんじゃないかな?」
そんな話をするうちに家に着きました。
「手洗いうがいして!」
「かばん片づけて!」
いつもの流れをこなしながらも、私の頭の中には、ルールについてのもやもやが残っていました。
本当は、誰の時間をもらっていたんだろう
お風呂から上がり、一人でひと息ついた時。
私の心の霧が、ぱっと晴れたような気がしました。
すぐに子ども達の元へ向かいます。
「お母さん、今思ったんだけど!さっきの忘れ物を取りに行かないルールについて、ちょっと話してもいい?」
「いいよー」と子ども達。
「さっきさ、教室まで先生がついて行ってくれたでしょ?」
「娘ちゃんと先生の2人だけで忘れ物を取りに行ってたけど、それは先生の大事な時間をもらってることになると思うんだ。」
「忘れ物を一緒に取りに行ってたら、その間にできた仕事ができなくなるよね?」
「そしたら、その分先生の帰りは遅くなるかもしれない。」
「家で待っている人がいるかも。先生のやりたいことがあったかもしれない。」
じっと私の目を見て話を聞いてくれている子ども達。
私はさらに続けました。
「あなた達も、お父さんのことを、早く帰ってこないかなーとか、帰ったら遊びたいなって言うでしょ?先生もきっと同じだと思う。」
静かに頷く子ども達。
「お母さん、さっきは自分を守るためのルールだって言ったけど、それだけじゃないのかもしれないと思って。相手のことを守るためのルールでもあるのかもなって思ったの。」
「今気がついたからさ、終わった話だったけど、もう一回話しにきたの。」
「先生、優しくしてくれたんだね。次は忘れ物取りに行かない。忘れないようにするね。」
守らせるルールから、考えるルールへ
いろんなところにあるルール。
そのルールは、誰のためのものなのか。
どんな想いで作られたのか。
子ども達と過ごす中で、今日ほど考えさせられた日はありませんでした。
言われたから守る、ただ覚えるだけのルールではなく、
そのルールは誰を守っているのか。
これからも、子ども達と一緒に考えていけたらと思います。

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