第3話|あの日、怒鳴られた私が気づいた“言葉の力” ― それでも、言葉を信じたい

言葉に裏切られた私

誰かの怒りに真正面からぶつかってしまったとき、
自分の中の何かが静かに崩れる音がする。
「どうして、こんなことになったの?」
そう問い続けながらも、
その出来事が、自分の生き方や言葉との向き合い方を変えることがある。

これは、私が言葉の重さを身をもって知った日の話です。

突然の怒号――立ち尽くしたあの日

「私が間違えたっていうの!? あんたが仕組んだんじゃないの!!!」
Sさんの手がグーで握られ、ブルブル震えている。

「何を言ったんだろう。」
どう伝えたら、こんなに人を怒らせることができるの?
どうしてこんなに怒鳴られるの?
それだけ恨まれていたの?

お客さんもいる中で怒鳴られる異常事態。
まるで音を立てて燃え盛る炎のよう。
私は、ただただ立ち尽くしていました。

怒りの始まりは、ほんの小さな違和感から

1時間ほど前。
私はいつも通り出勤しました。

今日の仕事は、Sさんの作業を引き継いで行います。
普通に挨拶を交わした後、「お願いします」と休憩に行くSさん。

作業に入った私ですが、「これはやばいかも……」とつぶやきました。
急いで先輩パートさんのところへ。

この時いたのは、Sさんの一番の取り巻きのMさん。
「トラブルにならないといいけど……」と思いながらも声をかけます。

「直して続きをやったほうがいいですか?
それとも、ここはそのままにして続きから始めればいいですか?」

「えー! 間違えちゃったんだね! やばいから直して」

妥当な判断。
今回のミスは売上に直結するもの。
お客さんからのクレームの可能性もかなり高い。
直さない理由がどこにもない。

「わかりました」
すぐに作業に入る私。
このままだと、時間内に自分の分の作業が終わらなくなってしまう。

集中していた時に響いたSさんの声。
それが冒頭のものでした。

すごい剣幕。
顔を真っ赤にして体を揺らし、大股で怒鳴るSさん。
今にも握られた拳が飛んできそうなほど、怒りに震えています。

「お前が間違えるように仕組んだんだろ!!」
「そんなことしません。」
「私に対するあてつけか!? ふざけるのもいい加減にしろよ!!」
「違います。」
「バカにしてるのか!?」
「Sさん……」

どうしたらいいの?
何を言ったらいいの?

体の先からすーっと冷たくなっていく。
顔だけが、熱い。

信じた言葉と、最後の決断

数日後、私は店長の前に立っていました。
「辞める」——ただそれだけを伝えるために、体から言葉を絞り出します。

店長には、これまでに何度も相談してきました。
その度に「Sさんに次はないから」と言われ、その言葉を信じてきました。

大好きな仕事を辞めたくない、負けたくない。
そんな気持ちもありました。

あの日、どうやってその場をおさめたのか、全く記憶にありません。
でも——握られていた拳を、この先忘れることはないでしょう。

泣きながら話す私を、店長はもう引き止めることはしませんでした。

何が彼女を怒らせたのか――残された「言葉」の影

Sさんの怒りに火をつけたのはなんだったのか。
普段から人の悪口を言っているから、自分も言われていると思ったのかもしれません。
Mさんの何気ない言葉がきっかけだったのかもしれません。

今となってはわかりませんが、
後から「私が話したせいでこんなことになったのかな?」
とMさんが漏らしていたと聞きました。

それを知った時には、
「そう思うなら私に事情を説明してよ。謝ってよ。」
そんなふうに思いました。

でも今では、知らなくて良かったと思っています。
私には合わない言葉——そんな気がしています。

「合わない人」と出会って気づいたこと

怒鳴られている間、恐怖でいっぱいの心の中、
頭の中では「関わってはいけない」と私に警告を出す自分がいました。

どんなに私の気持ち考えを伝えても、
考えの違う人には届かない。

「合わない人がいる」
そんな当たり前の事実に触れ、自分を守ることを覚えた瞬間だった気がします。

「言葉の力」を知った瞬間

言葉には力がある。
どんなに何気ない一言も、一度発したら止められない。
人から人へ渡り歩きながら、どんどん形を変えていく。
そして、自分にも、相手にも、良くも悪くも突き刺さる。

そんな言葉の力を知ってから、私は言葉に敏感になりました。
相手の声のトーン、表情、目線。
そしてそれ以上に、自分のことに。

より慎重に言葉を選ぶようになり、
どの表現が一番伝わるのかを考えるようになりました。

あの日の私が教えてくれたこと

あんな体験、したくなかった。
自分がダメだから、あんなことになったんだ。
そう考えていた時期もありました。

でも今では、「あの出来事があったから、今の私があるんだ」と思えるように。

自分も相手も大切にする言葉選びと関わり方。
私は、あの時の気づきを胸に、これからもたくさんの人と関わっていきたい。

自分の言葉を見つける旅の途中で

人と関わるたびに、今も立ち止まることがあります。
でも、あの日の私は、いつも静かに隣にいてくれます。

ゆっくりと歩きながら、いっしょに自分の言葉を見つけてみませんか?

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